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前十字靭帯(ACL)は膝関節内に存在し、太ももの骨(大腿骨)とすねの骨(脛骨)をつなぐ重要な靭帯です。スポーツ動作時、膝関節は急激な屈伸や回旋運動を行いながら、方向転換やジャンプ動作を行いますが、その際膝関節を安定させ、怪我を防ぐ役割を果たしています。 |
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前十字靭帯が損傷(断裂)する原因には、サッカーやバスケットボール、バレーボールなどの切り返し動作や着地動作時に起こる非接触性受傷と、ラグビーのタックルや柔道技など膝に直接外力がかかり断裂する接触性受傷があり、選手生命に影響する重大な怪我です。 |
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Q1. 前十字靭帯が損傷(断裂)すると、どのような症状がおきますか? (畑山)靭帯が断裂したときはブチっという断裂音や、関節がずれることでゴリっという音を聞くことがあります。同時に強い痛みを感じることが多いですが、ときに痛みが軽いこともあります。歩行できる方もいますが、歩行時に膝がぬけるような不安定感を感じる方もいます。受傷後しばらくすると膝が腫れてくることが多いです(関節内に血がたまる)。 急性期の痛みや腫れは1か月もすると自然に収まりますが、膝の不安定性は残存するため、スポーツ活動を再開すると動作時に膝の力がぬけたりはずれたりする症状(膝くずれ)が出現することが多いです。 Q2. どのように診断しますか? (畑山)まず丁寧に問診を行い、怪我の仕方を聴取することが大切です。そして徒手検査によって関節の腫脹、靭帯の不安定性をチェックします。レントゲンでACL損傷を疑う所見がみられることもありますが、多くはMRI検査によって診断を確定します。MRIではACLだけでなく、同時に発生しやすい半月板損傷の診断も可能です。
Q3. 「完全には切れてない」「靱帯が伸びている」など、損傷の仕方にも違いがあるようですが、その後の治療の仕方や経過に違いはありますか? (畑山)ACLには完全断裂と不完全断裂がありますが、個人的には完全断裂の方が圧倒的に多いと思っています。診察した先生によっては「靭帯が伸びている」と説明する先生もいますが、ACL損傷は靭帯の中央部や大腿骨の付着部近くで断裂することが多く、靭帯が引き伸ばされてゆるむように損傷することは少ないです。先生によっては、患者さんのショックを和らげるためにそのように説明していることもあるのではと思っています。また、断裂した靭帯が経過中に別の部位に癒着して靭帯が緩んだ状態でつながることはありますが、機能的には不十分であり、十分な膝安定性を獲得するためには靭帯再建手術が必要となります。 Q4. 放っておくとどうなりますか? (畑山)膝が不安定な状態でスポーツ活動を行うと、膝くずれによって関節軟骨や半月板を損傷することで痛みや不安定感が悪化し、最終的に関節症性変化(関節の老化)が進行します。ACLを損傷してもスポーツ活動をしなければ膝の不安定性を感じない方もいますが、気付かないうちに軟骨損傷や半月板損傷が進行することがあるため、注意深い経過観察が必要です。 Q5. 自然に治ることはありますか? (畑山)基本的に自然治癒は期待できませんが、まれにあります(私は2人経験があります)。 Q6. どのような場合手術の適応となりますか? (畑山)スポーツ活動を継続したい方、日常生活でも膝のゆるさを自覚している方、靭帯損傷後に半月板損傷が続発してくるような方は手術を行うことをお勧めします。 Q7. どのような手術を行いますか。入院期間、その後のリハビリ通院など治療が終了するまでにかかる期間も教えてください。 (畑山)損傷した靭帯を縫合してつなぐ様な手術をしても治りにくいことが明らかとなっており、靭帯再建手術を行うことが一般的です。手術の方法は、靭帯が元々付着していた位置に骨孔(トンネル)を作成し、膝を伸ばす腱(膝蓋腱)または曲げる腱(屈筋腱)を採取して作成した移植靭帯をそのトンネルに通し、金属で固定します。術後2週間程度は患部を安静とし基本的な筋力強化訓練を行い、その後膝の曲げ伸ばしや歩行練習を開始します。歩行が安定する3週間程度は入院をお勧めします。退院後もスポーツ復帰を目指して継続してリハビリ通院を行い、8〜10カ月での競技復帰を目標にします。目標に到達できたらリハビリ治療は終了となります。 Q8. 治療が終了したので何も気にせず運動したいのですが、再断裂が心配です。術前と術後では断裂のリスクは変わらないのですか? (畑山)再建した靭帯が元々の靭帯と同等の強度を獲得するためには術後1年半から2年ほど必要とされています。そのため術後2年以内は再断裂に特に注意が必要です。また、非接触型受傷として、自らの動作によってACLを断裂された方は、同側膝だけでなく反対膝の断裂にも注意が必要です。そのため手術した側だけでなく反対側のリハビリも重要であるとともに、怪我した足をかばって反対側を怪我しないよう左右差なく回復させることが大切です。 |